台湾の労働関係法令は日本と異なるため、無意識に間違いを犯さないよう注意が必要です。
中でも、日常的に発生する残業は、コンプライアンスに注意が必要です。
散見されるNG事例を以下に紹介します。
(1)労使会議未開催
残業を実施する場合、労使双方の代表が労使会議において同意しなければなりません。
この過程を経ることで、雇用者は残業指示を、従業員は残業申請をすることができるようになります。
なお、残業の実行に際しては従業員個人の同意が必要であり、労使会議での同意があっても強制することはできません。
(参考:労使会議に関する記事)
(2)管理職に残業を支給していない
このような状況は日本で散見されますが、台湾では違法の可能性が高いです。
背景として、すべての被雇用者には、労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されるとの考えがあります。
職位や業務内容により責任制を適用して就業時間を調整しても、残業代支給不要にはなりません。
(参考:責任制に関する記事)
(3)代休のみ認める
残業代受給は従業員の権利であり、雇用者はこれを侵害してはいけません。
残業代を支給せず代休のみ認めるという形は、従業員に対する権利侵害の可能性があります。
なお、残業代は当該労働日の区分(平日、休日、祝日等)により割増計算されますが、代休は実労働時間数と同時間での振替対応が可能です。
(4)残業代計算に基本給以外を含めない
残業代は、経常性支給の総額を基に計算します。
食事手当(所得税非課税枠のため多くの企業で支給)のほか、月額の通信手当等も計算対象です。
(参考:食事手当に関する調査)
(5)残業1時間以上から残業代を支給
勤怠や残業は分単位で計算すべきとされていますが、実際は各社の実状に応じて15分や30分を1単位として管理している場合が多いです。
いずれにせよ、残業時間の長短にかかわらず、通常時間外の労働に対しては残業代支給が必要です。
(6)誤った割増率で計算
例えば平日残業の場合、労働基準法は「時給*1/3(または*2/3)」のように残業代の割増率を分数で規定しています。
残業代計算において、分数を少数に換算する際、切り捨てとならないよう注意が必要です。
OK例 時給*1.34(または*1.67)
NG例 時給*1.33(または*1.66) ←1/3(または2/3)未満であり、法定値未満となる場合は違法。
(参考:労働基準法第24条)
(7)定例休日の稼働
台湾は完全週休2日制であり、週休日は以下の2種類に区分されます。
・休息日 法定以上の割増賃金支給により稼働可能。
・定例休日 天災発生時等を除き稼働不可。
これにより、原則として毎週1日の定例休日は稼働不可となるため、7日間連続の出退勤記録は違法の可能性があります。
なお、複数週(2週/4週/8週)内で労働時間の調整が可能となる変形労働時間制というものがあり、一部の業種で導入可能な4週変形労働時間制では当該原則が適用されない場合があります。
(8)移動を残業扱いにしている(状況による)
労働時間数の上限は12時間/日、残業時間数の上限は46時間/月であり、違反時は企業にペナルティが課せられます。
出張先までの移動が通常労働時間外の場合は注意が必要であり、これを労働(残業)扱いとする場合、法定労働時間超過による法令違反のリスクが生じます。
出張に伴い必要となる業務時間外の移動は、残業代ではなく手当で労うのが良策です。
(参考:出張手当に関する記事)