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台湾における報酬制度と支給方法に関する考察

2025-09-09 00:00:00

人事労務コラム

グローバル経済の中で台湾はアジアにおける重要な製造・IT拠点として成長を遂げており、それに伴い、企業は優秀な人材を確保・定着させるため、報酬制度の多様化と競争力強化が求められている状況です。台湾における報酬制度に着目し、日系企業、欧米系企業、台湾現地企業の制度設計と運用方法を比較しながら、支給形態の特性と課題をまとめました。

台湾における報酬制度の概要

台湾の報酬制度は、主に以下の4つの支給要素から構成されます。

‧固定報酬(Fixed Compensation)

基本給(Base Salary)が主な構成要素であり、月給制が一般的です。多くの企業が年12回の支給を基本とし、年末に「第13か月給与(ボーナス)」として追加支給を行うことが慣例となっています。

賞与(Bonuses)

年末ボーナス(旧正月前の支給)が最も広く定着しており、支給額は企業業績および従業員評価に基づき、1~3か月分程度が相場です。さらに一部の企業では、半期や四半期単位でのパフォーマンスボーナスを導入しています。

長期インセンティブ(Long-Term Incentives)

特に上場企業や外資系企業では、ストックオプション(SO)、譲渡制限付き株式(RSU)、従業員持株制度(ESOP)等を用いた長期的報酬制度が導入されています。これにより従業員の中長期的な定着や企業価値向上への貢献を促します。

福利厚生(Fringe Benefits)

法定福利(労保、健保)に加え、民間保険、昼食補助、健康診断、社員旅行等が企業ごとに提供されています。また、春節、端午節・中秋節の三節礼金やギフトも広く見られます。

企業形態別の支給方法の違い

●欧米系企業

欧米系企業は成果主義に基づいた報酬設計を重視しており、基本給+短期ボーナス+長期インセンティブ(RSU等)という構成が一般的です。給与水準は市場相場を上回る傾向があり、評価と連動した変動報酬の割合が高いです。

●日系企業

日系企業では安定性を重視した報酬設計が主流で、基本給や年功的な昇給制度が中心です。ボーナスについても固定月数で支給される傾向が強く、長期インセンティブ制度の導入は限定的です。一方で福利厚生面は比較的手厚く、リテンション施策として機能しています。

●台湾現地企業

現地企業は規模や業界によって大きな差がありますが、全体的に年末ボーナス文化が強く、報酬決定において経営者の裁量が大きい傾向があります。中小企業では近年、評価連動の賞与やストック報酬の導入も増加しており、外資的な制度設計を取り入れる動きも見られます。

支給方法における実務的課題

評価制度との連動不足:特に中小企業では、報酬と評価制度が明確に結びついていないため、インセンティブとしての効果が限定的な場合があります。

長期インセンティブの限定性:RSUやESOPは一部の上場企業に限定されており、多くの企業では導入コストや制度運用の複雑さが障壁となっています。

法令遵守と透明性:報酬制度の透明性をどの程度まで高めるかについては企業により方針にばらつきがあり、従業員からの信頼性確保が課題となる場面もあります。

今後の傾向

中小企業を含め、市場水準と競争力を意識した報酬設計の導入が増えてきており、長期的な動機づけ制度の普及としてRSUやリテンションボーナス等、長期的な貢献を評価する仕組みの導入が促進されています。また、定量的・定性的な評価指標と報酬の結び付けを強化することにより、公平性と納得感を高める傾向も強まっています。

台湾における報酬制度は、国際的なトレンドを反映しながらも、文化的背景や企業規模によって多様な形をとっていることが分かります。報酬制度は単なる賃金支払いにとどまらず、企業と従業員の関係性構築や組織活性化の中核となる要素となります。今後は、評価・報酬・育成の一体的な運用を通じて、持続可能な人材戦略を構築することが企業成長の鍵となっていくでしょう。