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解雇について(後編)

2025-08-10 00:00:00

人事労務コラム

本記事では、解雇を巡って実際に起きたトラブル事例とその注意点、対応時のアドバイスをご紹介します。

事例1. 労働者が担当する業務に対し能力不足であることを理由とする解雇
ある社員が業績不振や顧客からのクレームを理由に会社から解雇された。しかし社員側は、会社が具体的な評価基準や証拠を提示しておらず、指導や改善プランも提供されなかった上に、他の部署で適任の可能性があるポジションへの配置転換の試みもなかったとして、解雇に至るまでの過程が不十分だったと主張した。
■注意点
雇用者が、業績改善プラン(PIP)、能力向上のための教育訓練、他部署への異動等の措置を講じていない場合、裁判所はその解雇を不当と判断し、労働契約関係が継続していると認定することがあります。その結果、企業は給与の支払い義務や損害賠償責任を負う可能性があります。
■アドバイス
業務不適格を理由に社員の解雇を行う場合、雇用者は事前に客観的な評価基準や手順を整備し、具体的な証拠(業務ミスの記録、指導記録、業績改善通知等)を保管しておくべきです。また、解雇を決定する前に、社内異動、再教育等の他の選択肢を慎重に検討し、試行してから対応すべきです。
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事例2. 解雇金の計算間違いと、離職証明書発行の拒否
解雇された社員は解雇金の金額が不足していることに気づき、会社にその旨を申し出たうえで、失業給付金の申請のために非自発的離職証明書の発行を求めた。しかし会社は、当該社員が指摘する解雇金の金額間違いについて確認中であることを理由に、非自発的離職証明書の発行を拒否した。
■注意
本事例における解雇金の計算間違いの理由は公表されていませんが、解雇金計算にあたり混乱が生じやすいポイントとなるのが、基準となる「平均賃金」の算定に賞与を含めるか否かです。裁判所や労働行政機関は、その賞与の支給条件や実際の支給状況を総合的に見て状況を判断します。そして、賞与が「労務の対価」として支給されており、かつ「経常的(定期的・継続的)」な性質を持つ場合には、平均賃金の計算に含める必要があるとしています。本来平均賃金算定に含めるべき賞与を除外し、不足分が発生していた場合、会社は差額の支払い義務を負います。さらに、30日以内に全額を支払わなかった場合は法令に基づく罰則を受ける可能性があります。
加えて、たとえ解雇金の金額で争議がある場合であっても、会社は非自発的離職証明書の発行を拒否することはできません。拒否した場合、行政処分や民事損害賠償等、さらなる法的リスクを招くおそれがあります。
■アドバイス
不必要なトラブルを避けるため、解雇金の計算時には「平均賃金」の定義と算出範囲を正しく理解すべきです。

実務上の3つのアドバイス
①法律の規定を理解する
 雇用者・労働者の双方が「労働基準法」に定められた契約終止の条件・ルールを理解することで、権利と利益を保護することができます。
②解雇前に他の手段を検討する
 解雇を行う前に、異動、研修、業績改善プラン(PIP)等を実施・検討することが重要であり、これらは裁判所や労働行政機関が解雇の正当性を認めるうえでの重要な判断材料となります。
③記録を残す
解雇の合理性を裏付ける証拠として、業績評価、指導記録、懲戒処分、面談記録等を継続的かつ適切に記録・保管しておくことが望まれます。