台湾では自然災害発生時における出勤・登校の停止に関する法令として「天然災害停止上班及上課作業辦法」があります。これは、自然災害発生時に交通やライフラインに混乱や支障が生じ、出勤や登校の安全に影響を及ぼすおそれがあることから、その停止に関するルールを定めた法令です。
本法令の適用対象は政府各級機関および公私立学校であり、民間企業に対しては本法令が直接の義務を課すわけではありませんが、地方政府が出勤停止令を発令した場合には、社員の安全確保のため、多くの企業がこれに従う傾向にあります。多くの場合は台風接近時に、予測される風力や雨量に基づき、各地方政府の首長が発令します。
2024年の台北市における台風による出勤停止令発令日は、7月に2日間、10月に3日間、合計5日間ありました。
労働部発令の【天然災害發生事業單位勞工出勤管理及工資給付要點】によると、出勤停止令の対象地域は就業場所のみならず、各社員の居住地や通勤経路のいずれかが対象となっている場合にも、企業は社員に出勤を強制してはならず、また出勤しない社員に対して欠勤や遅刻として扱ったり、解雇事由にする等不利益な処分をすることはできません。
賃金について、原則としてNo Work = No Payですが、社員への配慮やモチベーション維持の観点から、出勤できない社員の給与を控除せず、会社の要請により出勤した社員には賃金を加算支給するか、交通費や交通手段を提供する等の対応をする企業もあります。在宅勤務が可能な状態であれば通勤時のリスクがないことから、会社は事前に出勤停止令発令日の在宅勤務を許可した上で、自宅での労務提供を求めることができ、通常どおり賃金を支給します。
出勤停止令発令日が習慣的に「台風休暇」と呼ばれていることから、当日は休暇であり労務の提供は不要だと誤解する労働者が多いです。今後の出勤停止令発令の際には正しい知識で社員に説明ができるよう、事前に理解しておくことをおすすめします。
【自然災害発生時の出勤管理と安全確保対策】
1. 天災時の対応SOPと連絡体制の構築
• 出勤要否を判断する責任者を指定する。(例:総経理、人事部長)
• 出勤停止の場合、LINE、SMS、または社内ネットワークを通じて従業員へ通知する。
• 社員の休暇申請手続きを明文化する。
2. 事前に勤怠および在宅勤務のルールを明確化
• 事業所が台湾各地にある場合、地域ごとで出勤要否を判断するか、全社で一律対応とするか方針を定める。
• 出勤停止日にやむを得ず出勤した従業員への振替休日や追加手当の支給有無を検討、周知する。
• 在宅勤務者への出勤停止令適用可否を社内マニュアルまたは労働契約に明記する。
3. 従業員の安全確保
• やむを得ず出勤した従業員へ交通費や交通手段を提供する。
• フレックスタイム制や出勤時間の繰下げを実施する。
• 倒木や看板の落下等による事故で従業員が通勤途中に負傷した場合、労災保険の申請をサポートする。
公式情報
• 行政院人事行政總處網站(https://www.dgpa.gov.tw/):各県市の停業・休校情報
• 中央氣象署(https://www.cwa.gov.tw/):台風の動向追跡および警報情報
• 各地方政府のSNSおよび公式サイト:出勤停止令をリアルタイムで発表。
参考資料
• 労働部「天然災害發生事業單位勞工出勤管理及工資給付要點」