労働者が受診する健康診断には、福利的なものと法令で規定されたものがあります。
この内、法令で規定されたものは、コストや管理を理由に実施しなかったり、必要な診断項目を省いたりすることはできません。
法令で規定された健康診断の実施タイミングは、「在職中」のほか「雇用開始時」があるため注意が必要です。
先ず、在職中の健康診断(中国語での呼称は健康検査)は、労工健康保護規則に規定されています。
--------------------------------------------------
労工健康保護規則第15条(日本語訳概要)
雇用者は労働者に対し、下記規定に基づき定期的に一般健康診断を実施しなければならない。
一、65歳以上の者は毎年1回
二、40歳以上65歳未満の者は3年毎に1回
三、40歳未満の者は5年毎に1回
--------------------------------------------------
一般健康診断の結果は7年間の保管義務があります。なお、特殊産業健康診断もあり、高温や騒音、異常気圧等の特殊な環境下で仕事を行う方が該当します。特殊産業健康診断の結果は10年間保管しなければなりません。
健康診断結果の保管義務を怠ると、30,000元以上150,000元以下の罰金が科せられます。
次に、雇用開始時の健康診断(中国語:体格検査)は、職業安全衛生法に定められています。体格検査の費用は病院により800元~1,200元前後で、この費用負担は労使協議の上決定するとされています。
なお、前職在職中に受診した上記健康診断の結果が有効期限内(年令による受診頻度と同様)の場合、体格検査に代用することが可能です。
参考:受診可能な医療機関 https://hrpts.osha.gov.tw/Home/CertifiedHospInfoSearch
雇用開始時の健康診断(中国語:体格検査)、在職中の健康診断(中国語:健康検査)の検査項目は以下をご確認ください。
参考:検査項目 https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawGetFile.ashx?FileId=0000306063&lan=C
また、法令で規定された健康診断を従業員が実施してくれないことがあります。企業が従業員に健康診断を受診させなかった場合の罰則については、企業に対して30,000元以上150,000元以下の罰金が科せられるだけではなく、従業員本人に対しても3,000元以下の罰金が科せられることがあります。
従業員とコミュニケーションを取っていただき、従業員には法定健康診断受診の義務があること、受診しない場合には罰金が科せられる場合があることを理解いただくことが大切です。加えて、企業側は従業員に健康診断を受診させる義務を果たしているという根拠を残すために書面による通知文を残すことをおすすめいたします。
弊社調査では、福利厚生の一環として、在台湾日系企業の83.50%が法定外健康診断を提供しています。同調査によると、補助金額は下記のようになっています。
一般の社員 5,559元
中間管理職 7,317元
上級管理職 10,600元
全社員同一 6,205元
(引用 パソナ台湾2024年福利調査報告)
法定健康診断と比較して高額であり、検査項目も充実しているため、場合によっては人間ドックに相当する検診が行われることもあります。
福利厚生の一環として提供される健康診断は、表面上は企業にとって追加のコストのように見えますが、実際には長期的なコスト削減に寄与する可能性があります。健康診断を通じて、従業員は自分の健康状態を正確に把握でき、早期の病気発見が可能となります。これにより、企業は病欠や休職のリスクを減らし、業務の安定性を保つことができます。さらに、台湾には日本語対応の医療機関が多数存在しており、駐在員を含む従業員が安心して受診できる環境が整っています。このような背景を踏まえ、健康診断の制度を定期的に見直し、より効果的な形で運用することを検討してみてはいかがでしょうか。