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賃金の減額について

2025-11-24 00:00:00

人事労務コラム

人事評価結果や降格が理由でも、賃金の減額には労使間の同意が必要です。 日本と同様の感覚で判断すると誤りやすい事項であり、弊社のセミナーでも質問が多いため具体的に考察してみます。

(1)減給はできないのか

労働基準法第21条において”賃金は労使双方の協議により定める”と規定されています。
つまり、雇用者による一方的な減給は違法ですが、労使間の同意があれば減給は可能です。
なお、減給に焦点を当てた規定は労働基準法にありません。
よって、従業員に対するペナルティである場合、同法第11条(通常解雇)、および同法第12条(懲戒解雇)を参照し、妥当性を検討する必要があります。
リンク:労働基準法

(2)減給に際してどのようなステップが必要か

前述の労働基準法第11条は、従業員に業務執行能力の不足が認められる場合は解雇が可能と規定しています。
この点から、最悪の場合は解雇に踏み切ることを前提とし、実際の状況に基づいて適法な範囲で対応方法を検討します。
通常解雇には予告期間が必要であることから、減給処分に際しても労使面談の機会を設けるのが合理的です。

(3)減給に対して反論がある場合

減給は解雇に対する”温情”措置とも言えるため、金額交渉等は行なわないのが鉄則です。
また、対象従業員が減給に同意しない場合は解雇を検討することもあり得ます。
もし対象従業員が減給に同意せず継続勤務した場合、同人が反抗的に発するネガティブな言動により社内の雰囲気が悪化する可能性があります。
そのため、減給は安易に打診すべきではなく、解雇実施に十分な証拠を保存し、場合によっては改善指導等の雇用者責任を果たしてから対応することが重要です。

(4)雇用者の裁量により実施可能な減給

前述のとおり、月給の減給には労使双方の同意が必要で、実施は容易ではありません。
ですが、月例支給金額以外の調整可能な項目を用いて年間の人事コストを抑えることは可能です。
労働力の安定確保を念頭に置き、従業員のモチベーションを考慮した検討が必要です。

A.賞与支給額

労働基準法第29条は、年度決算により利益がある場合に過失がなかった社員に対して賞与を支給する、旨を規定しています。 これに該当しない場合、雇用契約等で保障している金銭以外は支給不要です。

B.手当の導入による賃金調整

職位/職務に対する労いを、基本給とは別枠の手当で支給します。
肝心な点は、当該手当は対象職位/職務の従事期間に支給されることへの労使同意です。
支給開始時(雇用開始時や昇格時)に同意を得ることで、その後の調整が可能になります。

C.昇給率

昇給は法定事項ではありません。
人事制度等により保障された昇給以外は雇用者が調整できるため、いたずらに既得権を明示すべきではなく、人事制度の社内公開に際しても内容の吟味が重要です。

賃金の減額に関しては、人事制度に対する日台間の認識相違がトラブルを招く場合があるため、注意が必要です。
例えば、日本で散見される”降格時の減給”を台湾で実施した場合、社内公開された人事制度による降格でも、従業員の個別同意がない減給は一方的な権利侵害と見なされてしまいます。
また、よく言われる”透明な制度”は従業員の既得権を保障し、当該水準が高い場合は採用やリテンションに有益な面がある一方、水準が低い場合は従業員のモチベーション低下を招くおそれがあります。
加えて、雇用者による調整権が制限され信賞必罰の運用を制限してしまう場合もあるため、導入に際しては慎重な検討が必要です。