台湾の労働基準法には明確に試用期間制度に関する条文はありませんが、実務上、雇用者は合理的な試用期間を設けて従業員の適性を見極めることが認められています。多くの企業で試用期間制度が導入されていますが、運用の仕方によっては労務管理上のトラブルが発生するケースも見られます。
本記事では、実際の事例を交えながら、制度設計のポイントと留意すべき点について解説します。
事例:
Aさんはパン屋の経営者で、最近新しい従業員を採用しました。両者は3か月の試用期間を設けることで合意しました。
Aさんは「試用期間中だから」という理由で、この期間は法定の労工保険・健康保険・有給休暇を提供していませんでした。しかし、試用期間が終わった後、Aさんは新しい従業員の働きぶりが期待に達していないと判断し、契約を打ち切ることを一方的に通知しました。
→このAさんの対応は違法です。
雇用者は採用した従業員に対して合理的な試用期間を設けることが認められていますが、試用期間中の従業員であっても、法律の保護を受けないわけではありません。雇用者は労働法上定められる労工保険・健康保険の加入、最低賃金以上の賃金支払い、法定休暇・残業手当の付与等をおこなう義務があります。
また、雇用者が試用期間中または終了後に従業員を解雇する場合には、従業員が職務に不適格であることを具体的に証明する必要があります。単に「印象が良くない」や「期待と違った」といった理由では、通常、解雇の正当理由として認められません。
労働争議が発生した場合、労働局や裁判所は雇用者に対して以下のような具体的証拠を求めることがあります。
・従業員の業績が基準を満たしていない記録
・定期評価結果や面談記録
・無断欠勤・業務ミス・規律違反の具体的事実
雇用者がこれらの証拠を示すことができない場合、その解雇は「不当解雇」と判断される可能性があります。
「試用期間」を設ける場合、以下の3つのステップを踏むことで、合法的かつ透明性のある試用期間制度を構築し、トラブルを防ぐことができます。
STEP1:雇用契約書に試用期間を明記する
雇用契約書には、試用期間に関する条件を明確に記載する必要があります。
例:試用期間の開始日と終了日・期間の長さ・延長の可否と条件・試用期間中の賃金・評価項目・試用満了後の本採用条件や評価方法等。
STEP2:試用期間中の定期的な評価とフィードバック制度を設ける
試用期間を設ける目的は、従業員が職務に適しているかを評価することです。そのためには、客観的で合理性のある評価体制を整える必要があります。
例:明確な目標・課題の設定、定期的な面談・フィードバックの実施、評価記録の文書化等。
これにより、従業員は自分の状況を理解し改善でき、雇用者も合理的な管理記録を残すことができます。
STEP3:解雇時には法定の予告期間・予告手当・解雇金の定めに従う
試用期間中または終了後に従業員を不適格と判断して契約を終了する場合、雇用者は法律に基づき事前予告を行い、解雇金を支払う義務があります。